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青森地方裁判所 昭和34年(行)16号 判決 1960年2月19日

原告 蝦名鉄之助 外二名

被告 稲垣村長

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は「被告が稲垣村議会の議長、副議長の再選挙及び常任委員長及び常任委員の再選任につき、昭和三十四年八月三十一日(一)告示第六号を以てした西津軽郡稲垣村議会招集の告示、(二)稲発第八〇号を以て同村議会議員に対してした同村議会招集の告知はいずれも無効であることを確認する。若し無効でないときはいずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める旨申し立て、その請求の原因として、

一、原告らは青森県西津軽郡稲垣村の議会議員である。

二、被告が昭和三十四年七月二十日なした告示第四号稲垣村議会招集の告示、稲発第七〇号同村議会招集の告知に基ずき、同年七月二十三日午前十時同村役場に招集された同村議会は全議員二十二名が出席して開会され、先ず、同村議会会議規則に則り議長の選挙が行われ、議員野宮圭助十票、葛西知学九票、無効票三票で野宮圭助が議長に当選した。次いで副議長の選挙、常任委員会の各委員、同委員長、副委員長の選任の決議が順次行われ、原告蝦名鉄之助は総務委員会の、同成田柾逸は経済土木委員会の、同亀山武雄は教育民生委員会の各常任委員長に選任された。

三、ところが、被告は右議会における各選挙は会議規則第五十条第二項(投票点検の立会人は、議長が議員の中から議会に諮つて定める、旨の規定)に違反するから再選挙に付する必要ありとして昭和三十四年八月三十一日告示第六号を以て同村議会の招集を告示し、他方、各議員に対し稲発第八〇号を以て同村議会招集の告知をしたのである。しかして、同年九月三日午前十時招集された村議会に於て再選挙並びに選任が行われたがその結果、原告らが前回の議決により占めた前記各常任委員長の職には余人が選任され原告らはその地位を失つた。

四、しかし、前記七月二十三日の村議会の選挙は会議規則第五十条第二項に違反していないし各委員会委員長選任の議決にもなんらのかしもないのに拘らず、被告は地方自治法第百七十六条第四項に名を藉り村長の職権を濫用して右再選挙並びに再議のための議会招集の告示及び告知をなしたものであつて、右告示及び告知はいずれも原告らの前記各常任委員長の地位を侵害する無効な行政処分である。よつて、右告示及び告知の無効確認を求める。仮りに無効でないときはその取消を求めるため本訴に及んだ。

と述べ、

被告主張の事実のうち、議長は投票立会人を指名するに際し自己の意思だけですべきでないことは認めるが、その余の事実は全部否認する。

と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は原告らの請求を棄却する、との判決を求め、答弁として、「請求原因事実のうち、第一項は認める。第二項のうち昭和三十四年七月二十三日の村議会における選挙が会議規則に従つて行われたこと、議長選挙において無効投票が三票あつたことは否認し、その余の事実は認める。第三項は認める。第四項は否認する。」

と述べ、「なお、議会における選挙並びに議決が会議規則に違反するか否かの認定は被告にあることは地方自治法第百七十六条の規定に徴し明かで、稲垣村議会の会議規則第五十条によれば、投票による選挙に際しては議長は三人以上の立会人と共に投票を点検しなければならず、その立会人は議長が議員の中から議会に諮つて定める趣旨を規定しているところ、昭和三十四年七月二十三日の村議会における議長選挙は臨時議長野宮圭助が投票立会人を定めるにつき同人の反対派(当時の議会は野宮圭助派十名、反対派である葛西知学派十二名で構成されていた)の意嚮を無視し強引に議会の意思が議長一任のようであると称して自派の蝦名鉄之助、成田柾逸、千葉勝蔵の各議員を立会人に指名してなされたものであり、開票の結果反対派の葛西知学に対する投票十二票中三票の無効投票ありとして野宮圭助自ら議長に当選した旨宣したのである。葛西知学派十二名中三名が無効投票するなど考えられないところである。右開票に際して、立会人は投票用紙を議会事務局の職員から奪いとつて議席から見えないようにして開票したが、葛西知学の票には小さい鉛筆で線をひいたり丸印をかいたりした模様である。

およそ、投票立会人を定めるのは選挙の公正確実を期するためなのであるから、議長は一党一派に偏することなく、概ね各党派又は各会派より議長が議会に諮つて指名すべく、また、予め各派の申合せがあればそれに従うべきで、議長個人の意思だけで指名すべきではない。

右のように議長選挙が会議規則に違反して行われ、かような議長のもとに引き続き行われた副議長の選挙及び各常任委員長の選任の議決も違法であるところから、被告は地方自治法第百七十六条第四項に則り昭和三十四年八月三十一日告示第六号を以て議長、副議長の再選挙及び常任委員、常任委員長の再選任決議のため議会を招集する旨の告示をし、同時に各議員に対し同旨の告知をしたものであつて、なんら瑕疵はないのである。」

と述べた。(立証省略)

理由

行政処分の取消又は変更を求める訴および行政処分の無効確認訴訟の対象となり得る行政処分はこれによつて原告の権利義務ないしはその法律的地位に不利益な変動を及ぼすものでなければならないものと解すべきところ、原告らは本件訴により被告村長のなした昭和三十四年八月三十一日附村議会招集の告示および村議会議員に対する招集告知の取消ないしは無効確認を訴求するのであるが、前者は村議会招集の事実をひろく一般村民に、後者はこれを村議会議員に通知する行為にすぎず、その行為によつてはなんら原告らの個人的権益に変動を及ぼすものではないから訴訟によつてこれを排除する意義がなく、訴の対象となし得ないものといわなければならない。

原告らはさきの村議会において常任委員長に選任されたのに右の招集にかかる村議会においては他の議員がその職に選ばれ、結局において原告らが常任委員長の地位を失つたことをもつて被告村長の前記議会招集告示および告知に基くものと主張するのであるが、稲垣村議会における常任委員長の選任の議決について右のような異動があつたとしても、そのことは専ら村議会全体の意思の然らしめるところであつて、被告村長の議会招集告示およびその告知に基因するものとはとうてい考え得られないところである。(そのうえそもそも村議会内部における常任委員長の地位の得喪をめぐる紛争のごときはその選任の議決が地方自治法第百七十六条第四項に当る場合において、且つ同条の定める形式においてのみ司法審査の対象となり得るにすぎないものと解せられるが本件においてはこの点について深く論及する要をみない。)

よつて原告らの本件訴は不適法として却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 飯沢源助 福田健次 野沢明)

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